大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成5年(ワ)15648号 判決

主文

一  被告らは連帯して、原告小寺政子に対し金一一五〇万三〇五七円、同小寺淳人及び同小寺美穂に対し各五七五万一五二八円、並びにこれらに対する平成四年四月六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告小寺政子の、その一をその余の原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは連帯して、原告小寺政子に対し金一六〇〇万円、同小寺淳人及び同小寺美穂に対し各金八〇〇万円、並びにこれらに対する平成四年四月六日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認定しうる事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成四年三月二七日午前八時五五分ころ

(二) 場所 東京都千代田区丸の内二丁目一一番先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 態様 被告村川鋼一(以下「被告村川」という。)は、普通貨物自動車(登録番号「品川四四え六一四六」、以下「被告車」という。)を運転して、本件現場付近を外堀通りに向けて進行中、前方を走行中の車両が急停車したため、衝突を回避しようとして、急制動しながら左側車線に進路変更した際、本件現場付近を横断中の訴外小寺泰正(昭和一三年四月一四日生、以下「亡泰正」という。)に衝突した。

その結果、亡泰正は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、平成四年四月六日死亡した(甲三)。

2  相続

原告小寺政子(以下「原告政子」という。)は、亡泰正の配偶者であり、同小寺淳人(以下「原告淳人」という。)及び同小寺美穂(以下「原告美穂」という。)は、亡泰正の子であるから、平成四年四月六日、亡泰正の死亡により、その権利を原告政子が二分の一、同淳人及び同美穂が各四分の一の割合で相続した(甲八)。

3  損害の填補

原告らは、自賠責保険から合計三〇一七万四四五二円を受領した。

二  争点

1  責任

(一) 原告の主張

被告村川は、車両を運転する際、前車との車間距離を十分にとり、かつ前方注視して進行する義務があるのに、これを怠り本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

被告太陽運送株式会社は、被告車を保有し自己のために運用の用に供していたものであるから、自賠法三条本文に基づき、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告の主張

本件事故は、亡泰正が、本件道路は、幹線道路であり、横断が禁止されている場所であるのに、これに反して本件現場付近を横断した過失によつて発生したものであるから、被告らに責任はない。

仮に、被告らに責任があるとしても、亡泰正にも右のとおり過失があるから、相応の過失相殺をするのが相当である。

2  損害

第三争点に対する判断

一  本件事故態様

1  証拠(甲二、乙一、被告村川本人尋問の結果)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場付近の道路は、別紙図面のとおり、両側の歩道を含めた全幅員が三五・六五メートル、皇居方面から鍛冶橋方面が三車線、鍛冶橋方面から皇居方面が四車線の幹線道路である。道路状況は、歩車道ともアスフアルト舗装されたほぼ平坦な直線道路で見通しは良く、交通量頻繁である。交通規制は、制限速度が時速五〇キロメートルで、終日歩行者横断禁止となつている。周辺状況は、ビルが立ち並び、JR東京駅も近いことから人通りが多い。

(二) 被告村川は、被告車を運転して、皇居方面から鍛冶橋方面に向けて第三車線を進行中、別紙図面〈2〉地点で前方約一六・四メートルのところである同図面〈B〉地点に車両が急停止したのを発見したため、前方の車両との衝突を回避するため、急制動するとともにハンドルを左にきつて歩道よりの第二車線に進路変更したところ、亡泰正と衝突した。衝突後、被告車は、別紙図面〈5〉地点に停止した。また、本件現場には、別紙図面のとおり、被告車のスキツド痕が、右前タイヤ約四・二〇メートル、左前タイヤ約二・六〇メートル、スリツプ痕が右前タイヤ約六・九五メートル、左前タイヤ約七・二五メートル残されている。

(三) 亡泰正は、本件現場付近の道路を南側から北側に向けて横断を開始し、南側歩道から約一九・九七メートル、北側歩道から約四・一八メートルの別紙図面×地点で被告車に衝突された。なお、同図面のとおり、衝突地点から皇居方面へ約四七・四〇メートルのところに信号機のある横断歩道がある。

2  以上の事実によれば、被告車は、前方の車両が急停車した際、これに後続して停車することができず、しかも被告車が停止したのは、前方車両が停車した別紙図面B地点よりもさらに鍛冶橋方面の同図面〈5〉地点であることに照らせば、前方車両との車間距離が不十分であつたことは明白であるし、また衝突地点が、皇居方面から鍛冶橋方面道路のほぼ中央であることに照らせば、被告村川が前方を注視していれば亡泰正を発見することは可能であつたから、本件事故を回避することができたものというべきであり、被告村川に過失があつたことは否定できない。

したがつて、被告村川は民法七〇九条に基づき、被告太陽運送株式会社は自賠法三条本文に基づき(同被告が被告車の保有者であることは、当事者間に争いがない。)、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

しかし、亡泰正においても、横断が禁止されている交通頻繁な幹線道路を、近くに信号機のある横断歩道があるのにもかかわらず、横断した過失は否定できない。

右の被告村川と亡泰正の各過失を比較すると、亡泰正の損害の四五パーセントを減ずるのが相当である。

二  損害

1  亡泰正の損害(以下いずれも円未満は切捨てる。)

(一) 逸失利益 六七八五万五五七三円

〈1〉 定年退職時までの逸失利益 六五〇二万一七一二円

甲四ないし六、八、九、証人角田崇の証言によれば、亡泰正(本件事故時五三歳)は、昭和三六年三月立教大学を卒業し、同年四月以来本件事故により死亡するまで日本通運株式会社(以下「日通」という。)に勤務し、平成三年の年収は、一〇三四万八三〇〇円であつたこと、日通の定年退職年齢は六〇歳であり、日通の賃金規定によれば、亡泰正の本給は、定年退職するまでの間上昇すること、亡泰正の死亡前三年間の年収の上昇率は平均六・三九パーセントであることが認められ、これらのことから、亡泰正が平成四年四月から定年退職する平成一〇年四月までの収入は、平成四年(四月から一二月)が七〇二万八三六五円、同五年が一一七一万三一〇〇円、同六年が一二四六万一六〇〇円、同七年が一三二五万七九〇〇円、同八年が一四一〇万五一〇〇円、同九年が一五〇〇万六四〇〇円、同一〇年(一月から四月)が五三二万一七六七円となり、亡泰正は右の収入を喪失するものと推認することができる。そこで、中間利息をライプニツツ方式により控除して本件事故時における逸失利益の現価を算定すると、次のとおりとなる。

7,028,365×0.95238095(1年のライプニツツ係数)=6,693,680

11,713,100×0.90702948(2年のライプニツツ係数)=10,624,127

12,461,600×0.86383760(3年のライプニツツ係数)=10,764,798

13,257,900×0.82270247(4年のライプニツツ係数)=10,907,307

14,105,100×0.78352617(5年のライプニツツ係数)=11,051,714

15,006,400×0.74621540(6年のライプニツツ係数)=11,198,006

5,321,767×0.71068133(7年のライプニツツ係数)=3,782,080

以上合計65,021,712

〈2〉 退職金差額分 二二二万四〇一六円

甲五、九、一〇、証人角田崇の証言によれば、亡泰正は、死亡により日通を退職し、原告らは亡泰正の退職金として一五六九万四五四二円を受領したことが認められ、亡泰正が六〇歳で定年退職する場合に受領する退職金は、二五二一万三二一一円であることが推認できる。そこで、中間利息をライプニツツ方式により控除して本件事故時における逸失利益の現価を算定し、既に受領した退職金を控除すると、その差額は次のとおりとなる。

25,213,211×0.71068133=17,918,558

17,918,558-15,694,542=2,224,016

〈3〉 定年退職後の逸失利益 二九六九万〇八〇六円

本件事故時の亡泰正の稼働状況、年齢等を考慮すれば、少なくとも日通退職後六七歳までの七年間、賃金センサス平成三年第一巻・第一表・産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者・新大卒の六〇ないし六四歳の年収額七二二万円の収入を得ることができ、本件事故によりこれを喪失するものと推認することができるので、これを中間利息をライプニツツ方式(五三歳から六七歳までの一四年間に相当するライプニツツ係数九・八九八六から、五三歳から六〇歳までの七年に相当するライプニツツ五・七八六三を控除した係数は、四・一一二三)により控除して本件事故時における逸失利益の現価を算定すると、次のとおりとなる。

7,220,000×4.1123=29,690,806

〈4〉 合計 九六九三万六五三四円

〈5〉 生活費控除後の金額 六七八五万五五七三円

亡泰正の生前の生活状況に照らせば、〈4〉の金額から三〇パーセントの生活費を控除するのが相当であり、これを算定すると次のとおりとなる。

96,936,534×(1-0.3)=67,855,573

(二) 慰謝料 二四〇〇万〇〇〇〇円

(請求 同額)

本件事故に遭遇した際に被つた亡泰正の恐怖、苦痛、妻や子らを残したまま生命を断たれた無念さ、その他諸般の事情を考慮すれば、慰謝料として右金額が相当である。

(三) 葬儀費用 一二〇万〇〇〇〇円

(請求 一三七万八三五一円)

亡泰正の葬儀費用(甲七)のうち、被告らにおいて賠償すべき金額としては、右金額が相当である。

(四) 過失相殺、自賠責保険からの既受領額の控除

右(一)ないし(三)の合計すると、九三〇五万五五七三円となり、これから、過失相殺四五パーセントを控除すると、五一一八万〇五六五円となり、さらに既受領額三〇一七万四四五二円を控除すると残金二一〇〇万六一一三円となる。

2 相続後の原告らの取得額

(一) 原告政子(相続分の二分の一) 一〇五〇万三〇五七円

(二) 同淳人及び同美穂(相続分各四分の一) 各五二五万一五二八円

三  弁護士費用

本件訴訟の経緯に照らせば、弁護士費用は、次の各金額が相当である。

1  原告政子 一〇〇万〇〇〇〇円

2  同淳人及び同美穂 各五〇万〇〇〇〇円

四  合計

1  原告政子 一一五〇万三〇五七円

2  同淳人及び同美穂 各五七五万一五二八円

五  以上の次第で、原告らの本訴請求は、右四記載の金額及びこれらに対する本件事故後の亡泰正死亡の日である平成四年四月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

別紙図面第二

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例